そのセッターが上げているとき、アタッカーは普段より決めているのか。
同じアタッカーでも、セッターが変われば決定率は変わるのか。
試合を見ていると、「今日はこのコンビが合っている」「このセッターになると打ちやすそうだ」と感じることがある。では、それは数字にも現れるのだろうか。
2025-26シーズンのSVリーグ公式試合データをもとに、今回はセッターとアタッカーの関係を2つの数字で見てみた。
① AT決定率の高いアタッカーほど、多くの攻撃を任されているのか。 ② そのセッターが多くのセットを担当した試合では、アタッカーのAT決定率が普段より上がっているのか。
①では各アタッカーの攻撃配分率とAT決定率の相関を見る。プラスが大きければ、決定率の高いアタッカーほど多く打っている傾向が強い。②では、そのセッターが多くのセットを担当した試合でのAT決定率と、同じアタッカーのシーズン全体のAT決定率を比較する。
つまり、今回探したいのは、「決まる選手に託すセッター」と「託した選手が決めるセッター」だ。
なお、公開されている公式データでは個々のトス本数を直接確認できないため、本稿ではアタック打数を使って攻撃配分率を算出している。また、同一試合で複数のセッターが出場するケースもある。個々のトスとアタックを直接結びつけたデータではなく、あくまで試合単位で見た傾向である。その前提で数字を追ってみると、興味深い3人が浮かび上がった。
大宅真樹(日本製鉄堺BZ)――「誰に託しても、高い水準で決まる」
「誰に託しても、高い水準で決まる」
最初にこの名前が出てくるのは、驚きではないかもしれない。日本代表でも活躍し、サントリー時代にはVリーグの最高殊勲選手賞を2度受賞した大宅真樹。2025-26シーズンは日本製鉄堺ブレイザーズでプレーした。
攻撃配分率とAT決定率の相関は+0.133。「決定率の高い選手ほど、そこへ極端に攻撃を集める」というほど強い数字ではない。
一方、大宅が多くのセットを担当した試合では、打数で加重したAT決定率がシーズン平均から+1.21ポイント。さらに今回対象としたアタック打数の約91%が、シーズン平均以上の決定率を記録したアタッカーによるものだった。
マシュー・アンダーソンは44.8%→49.6%(+4.8pt)。高梨健太は43.2%→44.6%。トンマーゾ・リナルディは51.6%→52.3%、ウルリック・ボ・ダールも50.3%→50.8%へ上昇した。
決まる一人を探して、そこだけにボールを集める。少なくとも今回の数字から見える大宅は、それだけではない。複数のアタッカーを高い水準で機能させる。長くトップレベルで評価されてきたセッターを数字から探しても、やはり名前が出てくる。ここまでは、ある意味で納得の結果だった。面白いのは、ここからだ。
花岡千聡(東レ滋賀)――「決まる選手に託す。そして、さらに決まる」
「決まる選手に託す。そして、さらに決まる」
次に浮かび上がったのは、花岡千聡。2025-26シーズンの最優秀新人賞を受賞し、2026年度には日本代表にも初選出された、20歳になったばかりのセッターだ。
花岡は、今回の2つの数字が両方ともプラスになった。攻撃配分率とAT決定率の相関は+0.251。大宅の+0.133よりも強い正の相関が現れた。つまり花岡が多くのセットを担当した試合では、AT決定率の高いアタッカーほど攻撃を多く任される傾向が見える。
そして面白いのは、その先だ。花岡が多くのセットを担当した試合では、アタッカーのAT決定率そのものも上がっていた。打数で加重した上昇幅は+1.94ポイント。
ルシール・ジケルは36.5%→39.9%(+3.4pt)。古川愛梨は33.9%→36.5%(+2.6pt)。大川愛海は30.9%→32.5%(+1.6pt)。折立湖雪は30.4%→32.3%、結束美南は29.0%→31.0%、青柳京古も36.9%→38.4%。
一人だけではない。主要アタッカーの多くが、同じ方向に動いている。さらに今回の対象となったアタック打数の約9割が、花岡が多くのセットを担当した試合でシーズン平均以上の決定率を記録したアタッカーによるものだった。
決まる選手に、より多く託す。そして、託された選手が、普段より決めている。どちらか一方ではなく、2つの傾向が同時に数字へ現れた。だから花岡は、「決まる選手に託す。そして、さらに決まる」タイプとして見ると面白い。まだ20歳。この数字がこれからどう変化していくのかも気になる。
中島健斗(東レ静岡)――「誰に託すかより、託した選手が決める」
「誰に託すかより、託した選手が決める」
男子でも、もう一人かなり面白いセッターが見つかった。中島健斗。東山高校時代に髙橋藍らと全国制覇を経験し、2025-26シーズンはVC長野トライデンツでプレー。2026-27シーズンから東レアローズ静岡へ移籍した。
中島は、花岡とはまったく違う数字を残している。攻撃配分率とAT決定率の相関は-0.286。正の相関ではない。つまり今回の集計では、AT決定率の高い選手ほど多く打たせている、という傾向は見えなかった。
ところが、もう一つの数字を見ると一気に印象が変わる。中島が多くのセットを担当した試合では、アタッカーのAT決定率が打数加重で+2.67ポイント。今回取り上げた3人の中で最も大きい。
工藤有史は40.4%→45.6%(+5.2pt)。松本慶彦は45.2%→50.0%(+4.8pt)。ファルハン・ハリムは46.4%→51.7%(+5.3pt)。山田航旗は51.2%→53.4%(+2.2pt)。最も多く打ったマシュー・ニーブスも46.5%→47.5%。
一定以上の打数を記録した今回の集計対象では、アタッカーがそろってシーズン平均を上回った。花岡には「決定率の高い選手ほど多く打つ」という傾向が見えた。中島には、それがない。それなのに、中島が多くのセットを担当すると、打った選手の決定率が上がっている。
だから中島は、「誰に託すかより、託した選手が決める」という数字になった。東山高校で全国制覇したときも、髙橋藍だけに頼るのではなく、幅広い攻撃を組み立てていた中島。SVリーグの数字を掘ってみても、違う形でその特徴を想像させるデータが残っていた。
同じ「決まる」でも、数字の出方は違った
大宅真樹 攻撃配分率×AT決定率 +0.133/担当時AT決定率 +1.21pt 花岡千聡 攻撃配分率×AT決定率 +0.251/担当時AT決定率 +1.94pt 中島健斗 攻撃配分率×AT決定率 -0.286/担当時AT決定率 +2.67pt
大宅は、特定の一人だけではなく、複数のアタッカーを高い水準で機能させる。花岡は、決定率の高い選手に多く託す傾向があり、その選手たちの決定率もさらに上がる。中島は、決定率と攻撃配分に正の相関が見えない。それでも、担当した試合ではアタッカーの決定率が大きく上がる。
同じ「アタッカーが決まるセッター」でも、数字の出方はまったく違った。
もちろん、この数字だけでセッターの能力を評価することはできない。相手ブロック、レセプション、ローテーション、試合展開。AT決定率を左右する要素はいくつもある。そして今回のデータでは、個々のトスとアタックを一対一で結びつけることもできない。だから、これはセッターランキングではない。数字の中に現れた、ちょっと気になる傾向だ。
そして2026-27シーズン。20歳の花岡は、どんな攻撃を組み立てるのか。そして東レ静岡へ移った中島と組むことで、アタッカーたちのAT決定率はどう動くのか。次のシーズンが終わったとき、もう一度同じ数字を見てみたい。